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2007-02-10

[]『ロマンティックな狂気は存在するか』(春日武彦、新潮 OH! 文庫) 『ロマンティックな狂気は存在するか』(春日武彦、新潮 OH! 文庫) - イン殺 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『ロマンティックな狂気は存在するか』(春日武彦、新潮 OH! 文庫) - イン殺

「 DIS られた!(過去の自分に)」

ロマンティックな狂気は存在するか (新潮OH!文庫)

ロマンティックな狂気は存在するか (新潮OH!文庫)

事の起こり

「人はなぜ街中で日本刀を持った気違いに追いかけられたくなるのか (id:xx-internet:20061214:p2) で

読んでいませんが、『ロマンティックな狂気は存在するか』という名著が示すように、気違いは読者の憧れを集めて止まぬものなのです。

id:xx-internet:20061214:p2

と書いたしばらくあと、ゴッドハンドの導きにより、近所の古書店でこの本に遭遇。あるべき時にあるべき者の手に。これはそういう本なのです。多分。」

あらすじ

ロマンティックな狂気に憧れるなんて馬鹿じゃないの、という話。本書の序盤で説明される重要なポイントは「個性と病気は違う」ということです。個性的な人が精神病に見えることは多々あるし、狂人のフリーダムな行動が何かを生み出すように錯覚されることもありますが、だからといって病人がみな個性的なわけではないのです。当たり前の話ですね。氏はこう説きます。」

中井久夫は、狂人はクリエイティヴな意味において決して奇想天外なことは考えない、といった話を書いている(「着想・夢・妄想」『中井久夫共著論文集』 / 岩崎学術出版社)。彼ら狂人たちの発想は非常識で非現実的ではあるが、疑心暗鬼や邪推、妬心や宿怨といった俗っぽい「こだわり」が下世話なヒント(たとえばテレビや週刊誌でもてはやされている霊能者、空飛ぶ円盤、 C 級 SF の小道具としてのコンピュータ、邪悪な天才発明家等々)と絡まって奇形化したような、陳腐でチープな思いつきでしかない。現実に立脚しない詰めの甘さによって、キッチュな味わいにすら欠ける。

そんなふうに狂気から導かれた妄想が非創造的で貧困なものでしかない理由として、中井は「彼ら(狂人)はあまりにたやすく発見し断定するのである。かれらは『待つ』ことができない」と述べる。なぜか? 妄想には、狂気に囚われた人間にとって破局への転落を食い止める安全弁の役割があるからだという。

『ロマンティックな狂気は存在するか』第 2 章 自意識の不安と狂気 P45

「つまり、狂気や妄想というのは強すぎる心から生まれるものではなく、むしろ弱すぎる心が目の前の現実を認めないために薄っぺらい掘っ立て小屋を作り上げてしまった結果なのだと。それが証拠に、精神科医が扱う狂気の種類は素人が想像するほど百花繚乱なものではなく、むしろ幾つかの非常に類型的なパターンに集約されるのだということが得々と語られます。「どいつもこいつも精神科医に向かって『先生は正常と異常の境界がちゃんと分かっているんですか』なんてしたり顔で抜かしやがって」とか「狂人をネタに小説なんか書くなよ別に面白いものじゃないんだから」とかいう愚痴と入り混じって。」

狂気によって産出される幻覚や妄想の内容が、人々が通常考えているよりは遥かに退屈で硬直したものだという事実があるいっぽう、文学青年だとか芸術家を任じている連中が狂気へ過大な可能性や評価を「片想い」しているという事実もある。狂気は、想像力が一切の制約から解き放たれた際の実験劇場、常識や先入観を排した精神の解放区、人生そのものに対するアバンギャルドな態度、そうした一切合切を象徴しているように見えるのであろう。その手の思い込みは、子供の心は純粋無垢であると信じている阿呆と五十歩百歩であることを自覚すべきである。

『ロマンティックな狂気は存在するか』第 2 章 自意識の不安と狂気 P71 - 72

「……ごめんなさい。」

精神学用語入門

「とは言いつつ、春日先生は文芸方面にもそれなりに興味をお持ちの方らしく、いわゆる小説ネタに使われそうな用語や現象について、基本的なことを丁寧に説明してくれます。特に精神分裂病に関する解説がツボにはまったので引用。」

この名称は誤解を招きやすいように思われる。分裂するとはどのようなことを指すのか? たとえば多重人格はまったく別の病気である(ヒステリーの範疇なのである。一七七頁で述べるが、むしろ記憶喪失なんかと類縁がある)。それは大きな壷を打ち砕いても、小さな破片の集積となることはあっても、壷が壊れてその結果として二種類の小さな壷に変じることがないのと同じである。分裂するというよりは、むしろ精神のまとまりがなくなる、とりとめがなくなる、断片化する、と捉えた方が正確である。

『ロマンティックな狂気は存在するか』第 2 章 自意識の不安と狂気 P45

「その他、様々な都市伝説や小説ネタについても解説が。このあたりは本気で参考になるので、ファックな文芸部の人はぜひネタ元にするといいと思います。」

  • 「遺産相続に絡む陰謀で精神病院に閉じ込められて出てこられなくなる正気の人」という都市伝説について。
  • 第六章はわざわざ「文学的好奇心をそそる精神症状」と題していわゆってるネタを解説。
    • 多重人格はガチですか問題
    • 恋愛妄想、いわゆる電波。
    • 記憶喪失は普通数ヶ月で回復する。
    • 憑依現象。西洋に狐憑きはない。みんな悪魔と
    • ドッペルゲンガーの最大のツッコミどころは、なぜみんな見た瞬間「自分だ」と認識できるのかという点。みんな鏡を見て「これが自分?」って思わないんですか?
    • 幻影肢の回復過程では、架空の手がだんだん胴体に埋まってくるような感覚がするらしい。
    • 離人症と二人称単数現在形小説について。「あなたはディスプレイを眺める。そこには『あなたはディスプレイを眺める』と書いてある。あなたは舌打ちする。」みたいな奴。
    • 既視感。見覚えがあるのに記憶がないじれったさ。
    • 替玉妄想。スナッチャーの語源。

我々は狂気とどうつきあうべきなのか。知るか。

「さて、病気と個性は違うという点を踏まえて、じゃあ今後我々は狂気に対してどのようなスタンスを取っていくべきなのでしょうか。とりあえず春日先生はこのようにおっしゃっています。」

で、その辺の関連として、好奇心とか怖いもの見たさといったレベルでなしに、いい大人があんまり真剣に狂気へ関心を寄せる姿を目にすると、私は何かとても居心地の悪い気分を覚える。極端を経て普遍に至るといった方法論を採用したがる思考の働きといったものが、いかにも思い入れや自意識過剰の気配があって、うんざりさせられるのである。じゃあお前だとか精神科医全体についてはどうなのかと問われれば、狂気を追求するような奴は自分を含めて不健全かつ屈折した根性曲がりのナルシストに決まっている、と居直っておきたい。

『ロマンティックな狂気は存在するか』第 7 章 我々は狂気とどうつきあうべきなのか P269

「 DIS られた!」

まとめ。そうねえ。

気違い好きとしてそれなりの歳月を過ごしてきたわたくしこと xx ですが、自分のファンタジーを正面から否定されるのはなかなかに愉快な体験でした。いや負け惜しみでなしに。大昔にどこかで書きましたが、いくら xx だって本物さんは苦手です。これに限らずシチュエーションやキャラクターというのは、ファンタジーの皮をかぶらなければ到底人には食えない代物であり、生の素材のむせ返るような臭いと歯ごたえに満ち溢れているのではありますまいか。そんなわけで、今後も加工したり加工されたものを食したりしながらロマンティックな狂気を探しに行こうと思います。チャンピオンとかに。」

NAPORINNAPORIN2007/02/13 07:23いってらっしゃ~い。
所詮恋愛も狂気も文学のネタなんてみんな作家のメシのたね兼読者の都合のいい期待ですね。よのなかウソ恋愛マニアや狂気もどきマニアが作家を食わせてるのです。

sashimi_zsashimi_z2007/02/13 07:52> いくら xx だって本物さんは苦手です

DISられた!(;´Д`)

xx-internetxx-internet2007/02/13 23:35> NAPORIN さん
そういうものだと思います。その読者の都合のいい期待をでっちあげるスキルを身に付ければ当分食っていけそうな気がするんですけどね。

> 刺身さん
DIS られずに大きくなった blogger なんていません!
病気の人は病気なので、しっかり療養するのが一番ですよね。

とらとら2007/02/15 03:25現役精神科医の「私家版・精神医学用語辞典」でも「分裂病者の妄想を病者の豊かな想像力のあらわれだと考えるのは間違いである」と書いています。
やはり、現実はなかなかに厳しいようですね。
↓参考
http://homepage3.nifty.com/kazano/psysf.html