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イン殺 RSSフィード

2008-11-01

[]『スローターハウス5』(カート・ヴォネガット・ジュニア、ハヤカワ文庫SF) 『スローターハウス5』(カート・ヴォネガット・ジュニア、ハヤカワ文庫SF) - イン殺 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『スローターハウス5』(カート・ヴォネガット・ジュニア、ハヤカワ文庫SF) - イン殺

「今年読んだ小説の中ではナンバーワン。*1

反戦小説?

「一見すると反戦小説には見えないかもしれません。確かに第二次世界大戦末期のドレスデン爆撃をテーマにしているものの、それを体験する主人公ビリー・ピルグリムには"意識が時空を超える"という非常に SF 的なデタラメ属性が付加されているからです。彼の意識は脈絡なく過去から現在へ、現在から未来へと飛び、それに伴って叙述も二転三転します。ドレスデン爆撃が何であるかはwikipedia:ドレスデン爆撃を見ていただくとして、このとっちらかった小説のコンセプトを知るためには、以下の引用部分が参考になるでしょう。」

長年わたしは人から、いま何に取りかかっているかときかれるたびに、いちばん力を入れているのはドレスデンを扱った本である、と答えてきた。

あるとき、映画プロデューサーのハリスン・スターに同じ答えをしたことがある。すると彼は眉をつりあげてきいた、「それは反戦小説かい?」
「うん、そんなところだな」と、わたしはいった。
「反戦小説を書いているという人間に会うと、ぼくはいつも言うんだ。何と言うと思う?」
「さあね。何と言うんだ、ハリスン・スター?」
「こういうのさ、"かわりに反氷河小説でも書いたらどうだ?"とね」

彼が言わんとしているのは、もちろん、戦争はいかなるときにもあり、それをくいとめるのは氷河をくいとめるくらいたやすい作業だということである。わたしもそう思う。

『スローターハウス5』P12

「もうひとつ。」

わたしがトラルファマドール星人から学んだもっとも重要なことは、人が死ぬとき、その人は死んだように見えるにすぎない、ということである。過去では、その人はまだ生きているのだから、葬儀の場で泣くのは愚かしいことだ。あらゆる瞬間は、過去、現在、未来を問わず、常に存在してきたのだし、常に存在しつづけるのである。たとえばトラルファマドール星人は、ちょうどわれわれがロッキー山脈をながめると同じように、あらゆる異なる瞬間を一望のうちにおさめることができる。彼らにとっては、あらゆる瞬間が不滅であり、彼らはそのひとつひとつを興味のおもむくままにとりだし、ながめることができるのである。一瞬一瞬は数珠のように画一的につながったもので、いったん過ぎ去った時間は二度ともどってこないという、われわれ地球人の現実認識は錯覚にすぎない。

トラルファマドール星人は死体を見て、こう考えるだけである。死んだものは、この特定の瞬間には好ましからぬ状態にあるが、ほかの多くの瞬間には、良好な状態にあるのだ。いまでは、わたし自身、だれかが死んだという話を聞くと、ただ肩をすくめ、トラルファマドール星人が死人についていう言葉をつぶやくだけである。彼らはこういう、"そういうものだ"。

『スローターハウス5』P39

「"そういうものだ"はこの作品の最重要キーワードなので覚えておくといいです。作中、いろいろな場面でそれはそれは多くの人が死にます。主人公と一緒に捕らえられた捕虜であったり、まったく無関係の市民であったり、主人公の父であったりします。しかし、その死に際して感情的な描写がなされることはありません。人が死んでいくシーンは断続的に、あくまで淡々と描かれます。"そういうものだ"としか語られないのです。」

「あからさまに何か言いたげでありながら、絶対に自分からは言い出さない人のことを嘘つきと呼ぶのであれば、カート・ヴォネガット・ジュニアは紛れもなく大嘘つきの部類に入るでしょう。つまるところ『スローターハウス5』というのは、そのような虚言がひたすら繰り返される小説です。」

虚言癖の観点から見た『スローターハウス5』

xx が考える虚言マスタリーの条件を『スローターハウス5』は九割がた満たしています。これは驚異的なカバー率といえます。『タイタンの妖女』(id:xx-internet:20080930:p1)のときに挙げたものとかぶったりかぶらなかったりするままに列挙してみると、

  • 短くて印象的なフレーズを繰り返す。扇動演説でおなじみのテクニック。古川日出男もよく使う。
  • 先の展開を自己言及する。それによって読者に予断を持たせる。『スローターハウス5』では、小説の始まり方と終わり方があらかじめ予言される。
  • スターシステム。立場や属性がよく似た別人を違う作品の間で共有する。それによって読者に予断を持たせる。
  • 細部に非常にこだわる。誰々がかけていたペンダントには次のような文句が刻まれていた、云々。

あたり。ひとつひとつが実装されている小説はよく見かけるものの、いっぺんに複合的に取り入れている作品は珍しいものです。これを天然でやっているのだとしたら、ヴォネガットの人は実に大嘘つきだと思います。」

『スローターハウス5』のよさとは

「或いは反戦小説に対して"面白い"という評価をすることが不謹慎であると捉えられるかもしれませんが、『スローターハウス5』は確かに面白い。突拍子もない展開、トラルファマドール星人の不思議な世界観、舞台に現れては消える人々の要約された人生。隆慶先生はかつて「葉隠が面白くてなぜいけないのか」と言いましたが、反戦小説が面白くて悪いという法はありません。ただ、この小説を"面白い"と評することに若干の違和感が伴うのも事実です。なぜか。」

「おそらくそれは、この小説のよさが展開や構成の妙にあるのではなく、緊張感と抑制に満ちた語りにあるからです。入り組んでいてとりとめのない与太話でありながら、全体を統一する美意識があるからです。動に見えて実のところ全く動いていない世界を語る、完成されたお話。これを褒めるのであれば、宗匠の茶席をそう評するがごとく、"美しい"というしかないんじゃないでしょうか。」

*1:現時点の次点は『ルピナス探偵団の憂愁』(津原泰水、創元クライム・クラブ)。

nijinohebinijinohebi2008/11/03 18:596.
創価学会や統一教会等のカルト宗教とは一刻も早く縁を切る事をお勧めします。
「入れば救われる」だの「入れば神に選ばれる」だの主張する宗教とも関わらない事をお勧めします。
上述の予言群は人類滅亡の予言ではなく、破滅を乗り越える為の予言です。
カルト宗教に財産と人生を搾取されるぐらいならこれら予言群を信じることをお勧めします。
例え上述の予言群の正しさを主張する団体があったとしてもやはり関わらない事をお勧めします。
多くはただ利用しているだけであり、何より「余計な災難」に見舞われる事になるからです。

キリスト教徒の方へ、
キリストが教えを直接説いていたのはユダヤ人たちにであり、その教えはユダヤ教の教義という前提での物です。
ユダヤ教の教義はユダヤ人にとっての常識であり、キリストがわざわざ説く必要は無かったのです。
その後、ユダヤ人に迫害されたキリストの弟子たちが、ローマ人にキリストの教えだけを重視して伝えたのが今のキリスト教です。
その為、今のキリスト教の多くの宗派の教義は重要なものが幾つか欠けています。
「旧約聖書」をよく読み、ユダヤ教の戒律、特に食物に関する戒律も守ることをお勧めします。
また、懺悔と称して主に罪をなすりつけないよう務める事をお勧めします。

xx-internetxx-internet2008/11/03 19:07> nijinohebi さん
明るい場所で何か暖かい食べ物を摂ることをお勧めします。

spkspk2008/11/03 22:45虚言マスターというと別役実のエッセイもお勧めです。エッセイというか、エッセイを装った何か。
絶版ですが「犯罪症候群」が最高です。

kagefumimarukagefumimaru2008/11/04 18:47幼女。
「これから語ることはすべて嘘です」と前置いて、
嘘を語る人と、逆に真実を語る人、あるいは嘘を語りながら真実を混ぜる人、真実を語ろうとして嘘が混じる人。
嘘つきは誰なんでしょう、レムとか、ボルヘスとか。