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2008-12-19

[]『鉄鍋のジャン!R』を読み解く上で大切な三枚の画像 『鉄鍋のジャン!R』を読み解く上で大切な三枚の画像 - イン殺 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『鉄鍋のジャン!R』を読み解く上で大切な三枚の画像 - イン殺

「ブックマーカー受けしそうなタイトルですが、意外と長い xx のはてな体験から予想するに、ブックマーク数は多くて 30 程度だと思います。」

「それはそれとして、つい最近連載が完結した『鉄鍋のジャン!R』。まずは西条真二先生、おやまけいこ先生に感謝を。ありがとうございました、あなたがたの作品はわたくしに心の安らぎを与えてくれました。わたくしは『鉄鍋のジャン!』こそはある意味で究極の料理漫画だと公言してはばからない一信者であり、毎週チャンピオンに『ジャン』が掲載されているささやかな日常を愛して止まぬ者であります。しかしながら世の中には『鉄鍋のジャン』が毎週読めるという幸福を認識していなかった人たちが余りにも多い。「奇跡というものは世界中のどこかで毎日起こっているが、人類がそれを認識できたとしたら、それはまさに奇跡的である」とは誰だったかの弁ですが、それでは余りにもったいない。せっかくなので、ここはひとつ『鉄鍋のジャン!R』を振り返り、その素晴らしさを再体験してみることにしました。ネタバレなので「そういえば鉄鍋のジャン読んでなかったな」というオールドファンの方は単行本を読み直してから続きを読むことをお勧めします。」


一枚目、超力招来担々麺

「そも、『鉄鍋のジャン』(以下『ジャン』)が優れている点とは何であるか。以前 xx は料理漫画の定義について

  • 料理 (とそれを説明する知識)
  • 食べ手 (という名のツンデレ)
  • 驚愕 (と書いてリアクションと読む)
料理漫画の定義

であると書きました。料理を食べた人間が大仰なリアクションを見せ態度が急変する様、それこそが料理漫画の王道であるという見解は今も変わっておりません。このテンプレートを極めて忠実に実現したのが、『ジャンR』一巻に登場する超力招来担々麺(チャオリーザァオライダヌダヌミェヌ)です。この中国語読みまで脳に刻まれる禍々しい響き。祖母の名前の元ネタがミンキーモモである醤ならではのネーミングセンス。まさに『ジャン』を読んでいることを思い知らせてくれる濃厚さです。これですよ、これ。」

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「なぜこんなことになっているかを簡単に書くと"担々麺勝負で「担々麺は労働者のための料理だから死ぬほど生気が漲るオレ担々麺最強」と言い出したジャン"ということですが、まあ料理漫画では三週に一週見られる光景なので"そういうものだ"と思ってください。
巷に溢れるゲテモノ料理漫画の印象に反して、『ジャン』の料理知識は意外に堅実です。これはひとえに監修のおやまけいこ先生の功績であると予想されるんですが、"中華料理はエビに弱い"、"中華料理は牛肉に弱い"、"そして中華料理は水に弱い!"といった薀蓄の無駄な説得力が、トンデモなリアクション描写と相まって余計に非現実感を醸し出すのです。チョコレートに塩を入れると甘さが引き立つのと同じ理屈です。超力招来担々麺に関しても、インドのアーユルヴェータだのセサミオイルだのスッポンの甲羅だの当帰だの海馬だのといった解説がされますが、それらは全てリアクションのためのツマであり、審査員のリアクションが面白かったら後は全て忘れてよいよしなしごとです。この監修者の努力を全てゴミ箱に投げ捨てるがごときやりすぎ描写が『ジャン』なのです。」

二枚目、実は水道水! 蛇口をひねっただけ! クーククククカカカカーッ!

「『ジャン』を語る上で避けて通れないのが、"料理は勝負"というコンセプト、およびそれに伴うインフレです。
既に数十年の時を経て蓄積されたバトル漫画と連載とインフレの蜜月については、いまさら言葉を割く必要もないので触れません。問題は、前作でウジ虫料理にまで行き着いてしまった『ジャン』が、如何にして更なるインフレと戦ったのかなのです。理屈で考えていくと、究極の美味というテーマはおそらく人死にが出る結末にたどり着かざるを得ない*1。そういった方面に行かずに料理勝負を続けるために『ジャン』がどのような経路を通ったか、という話が二枚目の絵につながります。」

「十三龍(サーティーンドラゴン)との対決を経てビッグ大谷杯決勝のオージービーフ勝負を"いい料理にはオーラがある"という主人公の理屈で制したジャンは、『ジャンR』最大にして最新の敵、魔法使い佐藤田十三との対決に挑みます。酢豚対決で両者満点の引き分けとなり、試し割りの瓦としての佐藤田がほどよく積み上がったところで、勝負のテーマとして出されたのが"水料理対決"でした。」

「命の基本にして料理の基本、一説によると全てを知っていて美しい言葉も判別できるらしい水。それでいて味らしい味はない水。『ジャンR』最大の見せ場にふさわしい、訳の分からないテーマといえるでしょう。前作の決勝でダチョウ料理勝負の最中に突然何かを受信したキリコが"あたしの料理は塩を食べさせる料理!"と言い出して塩と塩と塩を混ぜた料理を作り始めたようなテンションです。もちろん佐藤田はチタン製の鍋を持ち出す、野菜ジュースをネルドリップしはじめる等々のうさんくさい挙動全開で料理を始めます。対するジャンはウツボを使う以外はこれといって目立った動きを見せません。いいネタの出し惜しみです。
で、最終的にカサゴのアクアパッツア中華風と金箔入り水のデザートびっくりリンゴのガラス玉入りというビックリ料理で満点を取った佐藤田の料理に対して、ジャンが出した料理は、ウツボと龍瓜の辛味煮、アンド、いろいろ野菜と姿クラゲの和えものでした。ウツボはともかく、クラゲの和え物は美味いことは美味いがごく普通の出来。これのどこが水料理なのかと尋ねられ、ジャンが言い放った一言がこれ。」

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「つまり、水料理が水を際立たせた料理であるというのは考えすぎで、水はしょせん水。そこらへんの水でも美味い料理はできる、というトンチだったのです。」

「料理漫画的な、あまりに料理漫画的な展開と言えましょう。本筋の美味さとは別の評価軸で勝負するのは料理漫画のさしすせそで言うと"し"です。美味さがどんどんインフレするのではなく、解釈の勝負が始まったのです。どちらも満点の料理ならば、世界の認識をねじ曲げて理屈を通した方が勝つ。脳で味わう料理! これが『ジャンR』最大の勝負の結末!」

「ふざけるなと言いたい。どう見てもジャンの負けですよこれ。トンチで一本取ったから勝ちって『ミスター味っ子』か。食べ終わった後の皿が汚いとかガーリックをかける量が多かったとかいうレベルのイチャモンと同レベルですよ。」

「だが、それがいい。なぜならその直前に『鉄鍋のジャン』が誇る至高のツンデレ、大谷日堂のこのコマがあるからです。」

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「よし、オッケー! リアクションいい! いけるぞ! さあもっと! と修造ばりのウザさで解説したくなる名反応です。この号泣に我々は『美味しんぼ』屈指の名エピソード、京極さんの鮎を思い出す。」

「歴史に if は禁物ですが、京極さんがもう少しだけ郷土愛に欠けていたら、同じように「こんなもので……、こんなものでー!」と号泣していたはずです*2。だって山岡の天ぷらの方が美味いのに、それを思い出という搦め手で修飾することで雄山は勝負を決めたわけですから。」

「もちろん料理は勝負であり、味は舌だけで味わうものではありません。最も美味い料理が勝つのではありません。審査員が最も美味いと言った料理が勝つのです。「実は水道水! 蛇口をひねっただけ!」*3はその点を完全に踏まえた台詞であり、ふてぶてしさ、トンチ、人を食ったアイディア、勝利を確信した高笑い、画太郎漫画のごとき読者の「えーー!?」、全てが内包された最高のコマです。何度も見直すと実に味わいが出てくる干物のごとき旨味を持っています。『鉄鍋のジャン』ごっこをする上で異常に汎用性が高い点も見逃せない。アクアパッツアを普通に作りながら「実は水道水! 蛇口をひねっただけ!」と叫びながらクーククククカカカカーッと笑えばそれだけでテンションがだだ上がりすることはラムネ入りコーラを飲めば滝のごとく泡を吹くくらい確実であり、そういったなんでもないようなことが幸せなのだと思います。なんでもない夜のことこそが二度とは帰らない夜でありきっとゆとり世代は『To LOVEる』は知ってても虎舞竜は知らない。だがそれはまた別の物語である。」

三枚目、心証なんてクソくらえだ!

「佐藤田以降の『ジャンR』は舞台を五番町飯店に移し、ホイコーローの解説から旧作の強敵たちとのリターンマッチ、そして中華の王道たるフカヒレ対決へと進んでゆきます。なんとなく、蟇目や五行、リュウジが五番町飯店に出張ってきた時点で打ち切りはほぼ確定していたように思われます。」

「うん、まあ、打ち切りですよね。常識で考えて。前作のような毒々しさがいま一つ薄いということは感じてましたが、今のチャンピオンには合わないノリだったのかもしれません。『ジャン』は少年が刀を振り回してイヤボーンして効果音が"ドン!"な漫画でも、美少女がわんさか出てきてキャッキャウフフする漫画でもありませんからね。対決する相手も、"中華料理界を支配する百蘭王の後継者"みたいなハッタリは薄れて"魔法使いと呼ばれる新進気鋭の料理執事"ですから、スケールダウン感は否めません。誰でも知っている中華料理を取り上げてウンチクを混ぜつつ対決するという展開もマンネリだ。そんなことは言われなくても分かってんだよ! それがいいんじゃねえか! マンネリだから面白いんだ! マンネリはステータスだ! 美味しんぼがドサ回りして何が悪い!」

「無意味な逆切れはそのくらいにして話を戻すと、最後のフカヒレ対決は 1000 円以内で提供するという縛りを受けた一レンゲ勝負となり、最終的にジャンは"一レンゲでコース料理を食べたような満足感を与える"という解釈で勝利を得ました。この展開に xx は"料理は勝負"という原点への回帰を見ました。理屈としても通っていて、なおかつ異常な美味さで全てを圧倒する料理。料理が美味ければ全てが許される。それはもう子犬と子猫と子アザラシを蹴飛ばしても許される蛇姫様ばりに。サウス・ブルーの諺に曰く、料理はいつでも! ハリケーン! たぶんそういうノリだと思います。そこでこの画像です。」

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「どうですか、このいい笑顔は。あなたはこんな笑顔で働けますか? 技術があればオールオッケー。力はパワー。なんだかんだ言ってもお前らは美味いものには逆らえない! クーククククカカカカーッ! そんなメッセージがひしひしと伝わってくるよい表情です。こういう顔に対して xx が言えるのは、ただ"柔らかい石はいい笑顔の者に"ということしかないのです。フォトライフにアップロードするとわかりませんが、 xx はこの画像を jan_09_fuck.jpg という名前で保存しています。要約すると"ファック"としか言いようがないからです。いや"ファックでござる"かな。いつかはこういう台詞を言い放ちながら仕事をしてみたいものです。」

まとめ。そうねえ。

「ここから得られる教訓は、"美味い料理は美味い"ということです。多分。おそらくそういうことが言いたかったんだろうと xx は解釈しました。『ジャン』は意外にも料理漫画の王道を歩んでいます。なんとなれば、王道を踏まえずに邪道を歩むことなどできないからです。」

「優れた料理漫画には終わりがないという特徴があります。人の食生活に終わりがないのと同様、それは回転が正確ならば理論上無限に巻き込めます。さながら『スローターハウス5』に出てくるヨン・ヨンソンの歌のように。逆に言えば、終わる料理漫画は本当の料理漫画ではないのです。いや嘘。すいません思いつきで書きました。でもインフレとバトルを希求され、どんどん秒進分歩していかなければならない宿命を負った『鉄鍋のジャン』は、料理漫画でありながら料理漫画ではない、というニッチかつ刺激的な立ち位置にある漫画だったと思います。この手の漫画は昔は多かったけど、今ではすっかり影を潜めちゃいましたね。四大少年誌で『ジャン』の前に観測されたのは『格闘料理人ムサシ』ですよ。」

「ものすごく個人的な思い入れを言うならエビチリ対決は絶天狼エキサイティングだったんですが、だって背徳のエビチリ三百倍風味だぜ!? 三百倍だぜ!? とか語っても全く余人の共感を得られそうにないので、ここでは"エビを食らわば殻まで"というキャッチコピーが xx の心をわしづかみして離さなかったことを記録しておくに留めます。三巻の表紙画像いいですよね。萌える。」

鉄鍋のジャン!R 頂上作戦 3 (3) (少年チャンピオン・コミックス)

鉄鍋のジャン!R 頂上作戦 3 (3) (少年チャンピオン・コミックス)

「それと、今回は取材協力店が明確にされており、作中の料理がどれだけリアリティを持っているか検証する方法が一応ながら用意されています。そりゃ『薬菜飯店』じゃないんだからムッシュメラメラにはならんでしょうが、軒並みそれなりの高級店なので、誰か制覇してレポートを上げると面白いんじゃないかと思います。店のリストはこんなこともあろうかと鉄鍋のジャンR! 取材協力店にまとめておきました。さる信頼できる筋からの情報によると、神田雲林では海老にカダイフの衣をつけて揚げたものが食べられたそうです。違いはソース・アメリケーヌ! だったかは定かではありません。」

*1:その点に関してはこんなこともあろうかと創作しておいたので興味がある向きは g:neo:id:xx-internet:20071013:p1 参照。

*2:或いは「カントリーロード この道 ふるさとへ続いても ぼくは行かないさ 行けない カントリーロード」的なバックグラウンドがあるのかもしれない。だがそれはまた別の物語である。

*3:連載時は確か「蛇口をひねっただけ!」だったように記憶している。そして個人的にはそちらの方が語呂がいいと思っている。宗匠が存命であれば「気づいておりましたか……。わたしも「蛇口をひねっただけさ!」に"さ"は要らぬと思うておりました……」と風流な会話を交わしてみたいところである。

黒2008/12/22 21:52確かに、連載時は「蛇口をひねっただけ!」でした。
「さ」が入ると、リズムが悪いというか毒気が薄れるというか…。

異常なほどの読後のボリュームを誇る無印と比べると、
なんだかアッサリ味の印象を受けるのは否めませんね。
キリコ・楊戦ばりの凶悪な顔しなくなりましたし。

もさもさもさもさ2008/12/23 11:07醤打ち切りは本当に残念な出来事だった。やはり十三龍の陰に隠れて大谷先生の悪人ぶりが目立たなかったのが原因だろうか。
大谷vs醤の最終決戦を見たかったが、やはりあの二人はトムとジェリーよろしくいつまでも仲悪くけんかしてるのがお似合いなのかもとも思う。
あの手この手を使って相手を叩き潰そうとするトム(大谷)を、それ以上のド外道っぷりでブチのめすジェリー(醤)。

通りすがり通りすがり2008/12/23 13:472部のトーナメントが終ったときにはジャンR終了説が2ちゃんねるのスレで埋めつくされていましたね
監修のおやま嬢との不仲説が文庫のあとがきで確定になり終了するんじゃないかとの憶測でしたが五番町対決編でほっとしていたのにまた打ち切り・・・
ジャン復活でチャンピオン買ってたんですけどまた立ち読みで済ます日々ですorz

通りすがり2通りすがり22010/11/04 22:09最近、水道水を使ったと言うあのシーンが見たくなってちょっとググって見ましたが、
単行本では語尾に「さ」がついてましたか。
*3を見るまで全く気がつきませんでした。

あ2018/03/15 02:48解釈の違いで決着をつけたり
強(美味)ければなんでも許されるという世界観

刃牙の作者はジャンに影響受けたのかという気がしてきた

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