2010-11-03
■ [映画]『十三人の刺客』(三池崇史)

「あらすじ。将軍の弟が近来稀に見る暗君だから殺そう。今から一緒にこれから一緒に殺しに行こうか。
と書くとその筋の人がこの映画を知って見に行くのに何の支障もないことが明白ですが、実際に観てみると『シグルイ』とは少し手触りが違ってまして、どちらかというと『柳生一族の陰謀』なんかの数十年前の時代劇大作の味を忠実に再現してます。リメイク版なので当然といえば当然ですが、久しぶりにこの手の映画を観たので、大して知っているわけでもないのに妙な懐かしさを感じてしまいました。こう、エログロバイオレンスといいますか。四肢切断された上に舌を抜かれた人が「ギギギギギ……」って言いながら血の涙を流したりするアレね。」
(ネタバレというほど先の展開に意外性がある映画だったっけ、だってこれ言ってみれば『プロジェクトXIII』でしょと思いつつ一応ネタバレ回避)
いい松方弘樹はチンピラの松方弘樹だけだ
「松方弘樹が実に良かったという点はぜひ強調しておきたい。小汚い槍使い浪人の古田新太や島田の若僧も良かったですが、松方弘樹の役柄には特に感銘を受けました。なぜかというとここ最近見る松方弘樹は大物としての扱いが多く、勢い『天地人』の徳川家康や柳生の裏ボスといった魔王役を請け負うことが多かったからです。しかしながら、私見ですが松方弘樹の役柄はそこじゃない。直江状を読んで目を剥いてキレる徳川家康や、頭に瘤をのっけて重厚っぽいしゃべり方をする山田浮月斎じゃないのです*1。チンピラどもをまとめてべらんめえ口調で喋るチンピラの親分が本来のスタイルなのですよ。」
「その点『十三人の刺客』の松方弘樹は実に理想的でしたね。義理と人情に篤く、若者の心意気に感じ入る人懐っこさもあり、部下からも慕われながらニコニコ笑って人殺しの算段を立てる松方弘樹。しかも勝ちオーラは失わず、スタッフにも「松方さんだけで 50 人くらい斬りそうだから敵は数百人規模にしました」「松方さんが斬られて死ぬ姿は考えられないので、最後は力尽きて倒れるシーンにしました」と言われる松方弘樹。ここ数年の松方弘樹さえ起用しておけば何とかしてくれる的発想を超えた、素材の味を生かした松方弘樹だったと言えましょう。」
バカ殿のすべて
「常日頃から SMAP の中でもっとも人殺し役が似合うのは稲垣吾郎であると主張して止まない xx ですが、暗君全開の今作もなかなかいい性能を発揮していたと思います。部屋に鞠を蹴りこんだ子供を一家丸ごと矢の的にするといった若干テンプレート的な暗君行動も見られましたが、忠長公と違って自分の異常さをある程度自覚していて「わしが老中になるような徳川幕府は先が知れたのう」とか言い出す中二病はいいですね。なぜなら、その方がよりめんどくさいから。
正しい意味での確信犯が忠長で、間違った意味での確信犯が稲垣バカ殿ですが、前者は思想を引っくり返されることで改心する可能性があるのに対し、後者はもう何をしても止まらないエクストリーム感があります。「ワカっていたんだよ、わたしには!!」って言い出す奴は絶対に反省しませんからね。犬食いや忠臣の生首をサッカーボールキックあたりに散見される天然感とも相まって、大変めんどくさいタイプの気違いでした。」
「なお余談ですが、一番めんどくさいのは行動原理がこれと一緒でなおかつ野に伏すタイプの気違いだと思います。なぜかというと、スナイプでヘッドショットして暗殺できないから。いざというとき問答無用で行動を止められない分、スイッチがついていないチェーンソーのように手に負えません。そう考えると暗君様のケースは公の場に姿を現していただけせめてもの僥倖と言えるでしょう。」
武士道は死狂いじゃないよ。それエア武士道だよ。
「サッカーボールキックといえば。最後にバカ殿が鬼頭半兵衛の生首を蹴飛ばして島田新左衛門が怒るシーンには若干違和感がありました。四肢切断された人を見て「武者震いがするのう」って言いながら笑う姿は特に問題なかったんですが。
思うに、あそこは島田新左衛門の世のため人のために害を為す巨悪を誅する、という発想が普通の人の考え方だからです。死狂いじゃないの。新左衛門の中には体制に歯向かうとか、平和な時代に人を殺戮するとか、更にはあからさまな気違いと事を構えるといった一連の行動に対する恐れがあって、そのストレスから口で書かれた「みなごろし」を見たときに笑わざるを得なかったんだろうと思います。
島田新左衛門が死狂いであったなら、殺すと決めた殿と一対一になったときに、旧友で忠臣だった男の生首を蹴ろうが踏もうが関係ないんじゃないでしょうか。そんなことより標的を一刻も早くブチ殺す方が先で、いちいちその行動に怒ってる場合じゃないでしょう。そういう相手だと知っていたからこそ殺しにかかったわけだし、そのために大勢の仲間を犠牲にして、善良な忠臣たちを罠にかけて虐殺したんだから。それでもなお感情を抑えきれないところが島田新左衛門らしさで、これが死狂い映画じゃなくてお仕事映画であるポイントなのかな、と考えた次第。」
*1:リメイク版『柳生一族の陰謀』の宗矩役はかなりいい方ですが、あれはそもそも DJ の勝利ですからね……。 id:xx-internet:20080928:p1
良い侍は死んだ侍!でも死んだ暴君はずっと暴君扱い。史実では違うのにこんな改変を受けるとは夢にも思わなかったでしょうね。
斉韶さまは本当に楽しそうでしたね。戦はもちろん痛いのも怖いのも楽しんでいたと思います。死ぬのも。
世の中大体の人間は今まで知らなかった事を経験するのを楽しんでいますが、斉韶さまもその口だと思います。
あの犬食いも、今までやったことないけど、こんな食い方したら面白いんじゃね?というノリだったんだと思います。
犬食いシーンにしても、「あれ、おれ暗君なんだから普通に飯食ってたら普通の人に見えね?」とふと思い立っちゃったんじゃないでしょうか。大丈夫、その発想が既におかしいから。